Download!Download Point responsive WP Theme for FREE!

カワイ・レナード、偉大さの追求

kawhi_032016「偉大な選手」になるために成長し続けるカワイ・レナード。普段見ることのない彼の素顔や、今のカワイがいかにして作られたかに迫る。

(以下の記事は Sports Illustrated に掲載されていた「The Island of Kawhi: Leonard gives second wind to Spurs’ dynasty」(Lee Jenkins著)をかいつまんで翻訳したものです。一部こちらの記事の引用もあります。)

カワイ・レナード、クワイ・レナード。人に寄って彼の名前のカタカナ表記は異なるけれど、英語だとハワイのカウアイ島と似た発音になる。彼の名前の由来はカウアイ島ではないけれど、父親は名前の響きが好きだったと信じている。青々としていて、人気のオアフ島やマウイ島ほど賑わっていないカウアイ島へ、カワイはまだ行ったことがない。いつか行ってみたいと思っている。

カワイは末っ子で、4人の姉がいる。姉たちを静かに観察して育ち、ティーン特有のいざこざ等は避けてきた。7歳の時の身体検査で「将来はNBA選手になる」と医者に宣言した。「何人の子供たちが同じことを言ってきたと思う?」と医者は笑う。カワイがここまで大胆な発言をしたのは、これっきりかもしれない。

「大抵の人は自分の人気を気にするもんだ。でもカワイは昔からそういうことには興味がないんだ」カワイと昔からの友人であるジェレミー・キャッスルベリーは言う。

1980年代のマイケル・ジョーダンのドキュメンタリー「Come Fly with Me」を目が真っ赤になるまで見た。とはいえ、映画やCM、記録的なスタッツやハイライトなど、ジョーダン以来NBA選手の成功の象徴とされるようなことには惹かれなかった。「自分が注目されるのは好きじゃないんだ」とカワイ。「大事(おおごと)にされたくないんだ」。彼にとってバスケは見世物ではなく発散する場であり、栄光ではなく逃避の道具だった。「コートに2時間いても、たったの10分に感じる」と語るカワイは、数学が得意だった。同じように時間が過ぎるのを忘れることができるからだ。

高校の頃、Nikeのキャンプに招待されたのを「注目されに行く必要がない」と言って断った。大学はサンディエゴ・ステート大に最初にリクルートされたため、同じ南カリフォルニアにあって、より名門とされるUSCやUCLAに行くことは考えもしなかった。今でも夏になるとサンディエゴの2ベッドのアパートに戻り、部屋のドアにはミニサイズのリングを引っ掛けて友人のキャッスルベリーと遊ぶ。ティーンネイジャーの頃に運転していた97年のシボレーのSUVを運転することも多い。「まだ動く。それに支払いも済んでるからね」。

現在のNBAのスター選手の中で未だに髪をコーンロウにしているのもカワイだけだ。影響を受けたカーメロ・アンソニーですら、もう何年もコーンロウにしていない。髪を切ったらもっとスポンサーがつくのに、と友人らに言われてもお構いなしだ。でも手羽先専門のチェーン店「Wingstop」はカワイにとっては嬉しいスポンサーだ。そこのマンゴー・ハバネロ味の手羽先がお気に入りだからだ。$94ミリオンの契約を交わした後も、店からもらったクーポン券をなくした時はパニックに陥った。幸いWingstopはまたクーポン券を送ってくれた。

カワイは2011年のドラフトでペイサーズに指名され、その日のうちにスパーズへトレードされた。カワイがサンアントニオに到着した時、チームは彼についてあまり多くのことを知らなかった。徹底してバックグラウンドチェックを行うスカウトをもってしても、人並み外れた肉体(6’7”の背丈に7’3”のウィングスパンに加えて、手の大きさは11インチ)のこと以外はあまりわからなかった。サンディエゴ・ステート大では早朝6:30にはまだ電気がついていないアリーナで練習するために自らランプを持参していた。16歳の時、コンプトンに洗車場を経営していた父親が銃殺された。サンアントニオに移ると母親と同居することにした。自分は2階の部屋、母親は1階。夜には晩ご飯を食べながら母親と一緒にジェンガをして遊んだ。

カワイは現代建築が好きで、現在サンアントニオに家を建設中だ。ガールフレンドは大学時代から変わらない。一番の親友は高校時代のチームメイトだったジェレミー・キャッスルベリーで、現在はスパーズのビデオ部で働いている。

初めて会った時のカワイは「真剣そのものだった」とHCのポポヴィッチは思い出す。今季でNBA5年目のカワイは「偉大さ」と「スターダム」の違いが分かる選手だ。「カワイは 偉大(great)になりたいと切に願っている。でもスターになりたいとは微塵も思ってない」とポポヴィッチ。「彼はとにかくゲームを愛してるんだ。それ以外のことは無視だ。」

リーグに入りたての頃、ポポヴィッチはカワイに言った。「リーグ一のディフェンダーになれ。ブルース・ボーウェンの10倍にならなきゃダメだ。」1巡目でドラフトされたカワイはドラフト外からNBAに入り努力を重ねたボーウェンと比べられても気を悪くすることなかった。「今までずっとそうやってきた。とにかくディフェンスをして、後はバスケットを決める」。子供の頃のピックアップゲームやAAUの試合など、誰もディフェンスなんてしないような試合でも一人でディフェンスをしてきたのだ。

いい選手にこそ厳しくするポポヴィッチでさえ、カワイには言葉を緩めた。「カワイは間違いを犯すと本当に申し訳なさそうなんだ。誰の期待も裏切りたくないんだよ。だからいいプレーをした時は『素晴らしかった。本当によくやった。もう笑っていいぞ。自分を褒めてやれ』って言ってやるんだ」。またポポヴィッチはカワイの無言の訴えも理解するようになった。「例えば試合中に早めにベンチに戻した場合、あいつはこうする」そう言ってポポヴィッチは口の片側を上げた。「これは『ポップ、一体なんでこんなに早くベンチに戻すんだ』という抗議だ。でも絶対そんなことは口にしない。だから『また戻すから』と言ってやる。すると頷いてベンチに座る」。

プレータイムはディフェンス次第で決める、とポポヴィッチはカワイに伝えた。毎年オフシーズンになると、カワイはサンディエゴ・ステート大のストレングス&コンディショニングコーチのランディー・シェルトンとトレーニングをする。NFLの選手のトレーニングもするシェルトンは、カワイをまるで一流のコーナーバック(アメフトにおけるディフェンスのポジションのひとつで、速さと敏しょう性が必須)の様に扱った。2年目にはプレータイムが30分以上に増えた。「フィルムはよく見てる。でも選手一人一人を見るよりは、相手チーム全体のオフェンスのスキームを見る様にしてる。彼らの傾向を理解しようとするんだ。そうすれば推測することができる。結局は、より良い推測をすることに尽きる。相手のスキームを変えさせるんだ」。

ポポヴィッチ曰く「アイバーソンのようにワイルドで、パッシングレーンにいるからスティールを奪えてるんじゃないんだ。あいつは相手をガードしてる。カワイを相手にしたくない選手は多い。」カワイが試合にチェックインすると相手チームの選手らは顔をしかめる。「長さや強さ、速さ以上に、あいつはの集中力はとてつもないんだ」とクリッパーズの J.J. レディックは言う。「一体どんなスカウティングレポートをもらったのか知らないけど、全てのプレーを知ってて、しかも一瞬も休まないんだ。それでも俺は自分のプレーをするし、アグレッシブにショットを狙う。でもあいつは多分間違いは犯さないし、俺は1Qで1、2度しかシュートできないかもしれない。他のチームメイトにもっとスペースが空くと信じて自分は覚悟を決めるしかない。」

そのディフェンスはスタッツにも十分現れていて、昨季はDPOYも受賞した。一流のディフェンダーとして十分にその名を知らしめたが、カワイはそれ以上を求めた。

2011年にシカゴで行なわれたドラフトコンバインに参加したカワイは、一日中座っていた。他のトップドラフト生同様、測定以外のドリルやゲームには参加しないようアドバイスされていたからだ。やがて見ているだけではいられなくなったカワイはボールを掴んでコートに行き、シュート練習を始めた。10分ほどするとその場から退くように言われた。

その10分間を、チップ・エンゲルランドは見ていた。「ベースはいい。フォームも悪くない」スパーズのディベロップメント・コーチで世界的にも有名なショットドクターのエンゲルランドは、その日たまたま見た10分間でカワイに太鼓判を押した。カワイは大学の2シーズンではスリーポイントの確率がたったの25%だった。ドラフト当日、ジョージ・ヒルと引き換えにカワイを獲得したスパーズのフロントには戸惑っている人も少なからずいた。ポポヴィッチは当時のことを思い出す。「本当にこれでいいのか?とお互いに顔を見合わせながらビクビクしてたよ。どんなやつか分からない。シューターでもないし、スコアラーでもない。ペリメターの選手でもない。大きくてリバウンドができることしか分かってなかった。」

前年にリチャード・ジェファーソンのシューティング・フォームを改善したばかりだったエンゲルランドは、ジェファーソンと似たフォームをしていたカワイを見て「これなら一から変える必要はない、ちょっと調節すればなんとかなる」と思った。頭の後ろ辺りから打っていたフォームを、コービーのリリース・ポイントを参考にして改善した。エンゲルランドもカワイも南カリフォルニア出身で、カワイはコービーを見て育っていた。少しでも上達しようと、カワイは耳を傾けた。エンゲルランドはカワイはいつかスリーポイント・コンテストに呼ばれるだろう、と予言した。

ドラフトされて間もなくロックアウトがありその間は直接コーチングを受けることができなかったが、エンゲルランドのアドバイスをもとにカワイは練習を重ねた。ロックアウトが明けて短いトレーニング・キャンプでカワイに再会したエンゲルランドは、彼にこう尋ねた。「偉大(Great)な選手になりたいか?」カワイはいつものようにすぐには返事をしなかった。「簡単な質問じゃないからね。いい(Good)選手でも悪くない。Goodは十分だ。一晩よく考えてみてくれ。」翌日の練習で、カワイはエンゲルランドに近寄ってきて答えた。「なりたい。偉大な選手になりたい。」

こうして、舞台裏では野心的な試みが始まった。その頃テレビでスパーズの試合を見ていた人は、ディフェンスをし、リバウンドを取り、時折コーナーからスリーを打つカワイを目にしたことだろう。一見ではスリー&Dのスペシャリストを育てているかのように見えたが、実のところはNBAの次なる偉大なツーウェイ選手を育てていたのだ。コーナースリーに始まり、ワンドリブルからのプルアップジャンパー、コービーのステップスルー、フェイダウェイなど、将来的には相手のディフェンダーがカワイをほっとけないようにジャンプショットも徹底して練習した。2013年のオールスターではNikeのスイートにいるコービー本人と様々なムーブについて話した。「多くは話さなかったけど、鋭い質問ばかりだった」とコービーはその時のことを思い返す。確実に武器が増えたカワイは試合でそれらを試したくてうずうずしたが、ポポヴィッチはまだそれをほとんど明かすことを許さなかった。スパーズはもっと先を見ていたのだ。

スパーズが2014年にチャンピオンシップを手にした後、カワイはアメリカ代表チームを辞退した。2年連続のファイナルズ出場で疲れていると思われていたが、実際には夏の間ずっと毎日3度のワークアウトを行っていた。ラリー・オブライエン・トロフィーがサンディエゴに届いた時も、一切アパートの部屋から持ち出すことはなかった。

gettyimages-450690760_master
photo via spurs.com

そして昨季、カワイは解き放たれた。ポポヴィッチはベテランのマヌ・ジノビリのためのプレーをカワイに与えた。ウォリアーズのドレイモンド・グリーンのようにリバウンドを追うことを許し、初めてスモール・フォワードのポストアップを提示した。2月のマジック戦では、同点で試合時間を13秒残してタイムアウトをとった時、描いたプレーを消してカワイのアイソレーションに作戦を変更した。カワイは19フィートの距離からのプルアップジャンパーで試合を決めた。その時も大袈裟に喜んで見せることはなかった。大事にする必要はない。

今季のオールスターではエンゲルランドの予言通りスリーポイント・コンテストに招待されたものの、辞退した。初めて出場したオールスター・ゲームでは相変わらずひとりでディフェンスをしていた。

「カワイとはあまり深刻にならないようにしてるよ」と言うポポヴィッチ。「でも今後は毎試合お前が全力を尽くす番だ、とも伝えている。コービーやマイケル、マジック、ラリー、そしてティム・ダンカンのようにね。彼らと同じレベルに立っているんだ。」チャールズ・バークレーがかつてダブルチームにいかに対応していたかを見せるためにビデオを見せ、コービーと関係を築くようにアドバイスをする。

カワイは50点以上得点し、派手なプレーでVineの動画になることはないかもしれない。でも25点、8リバウンド、そして32分間の徹底したディフェンスを何ヶ月も、何シーズンも続けることができたら?「そうなれば偉大だ。彼は一晩だけgreatになろうとしてるわけじゃない。これから長い間greatであろうとしているんだ」とエンゲルランドは言う。カワイは現在平均20.8点、6.9リバウンドを記録している。カリーに注目が集まる今季、MVP投票ではせいぜい2位止まりだろう。59-10というスパーズの記録でさえも、2位以上には上がらないだろう。

それでもカワイがいるからこそ、スパーズはウォリアーズの2連覇を脅かすことができる。スパーズGMの R.C.ビューフォード曰く「カワイはこのチームの軌道を変えた」。ダンカンやジノビリ、トニー・パーカーの全盛期には、ロバート・オーリーやブレント・バリー、マイケル・フィンリーやボーウェンのようなスペシャリストで脇を固めることでチームを維持することができた。ところが中心となる選手たちが年を重ねるうちに、彼らのプレータイムや役割を別の選手が担う必要が出てきた。カワイの登場はタイミング的にもちょうど良かった。カワイがいなかったらダンカンやジノビリはまだプレーしているだろうか、ビューフォードは考える。

今季だけでなく、今後も偉大さを追求して成長するカワイから目が離せない。

4 Comments

Add a Comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *