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ドレイモンドがドレイモンドであるために

ドレイモンドがドレイモンドであるために、カーとドレイモンド・グリーンが築いた関係は最悪の衝突から始まった。

(本文は2018年5月24日にBleacher Report に掲載された記事と2016年10月19日にESPNに掲載された記事を元に書かれています)

4シーズン連続でファイナルに出場し昨季からケビン・デュラントを加え、あまりにも圧倒的な強さでそれなりにアンチも増えつつあるゴールデン・ステイト・ウォリアーズ。中でもドレイモンド・グリーンは他チームのファンの気持ちを逆撫でし、GSWファンをもハラハラさせることに関してはトップクラスと言ってもいいだろう。今季のNBAファイナルの1戦目ではレブロン・ジェームズのダンクをブロックした際に手がレブロンの目にあたりファウルを取られ、それに抗議して今ポストシーズンで4つ目のテクニカル・ファウルを吹かれた。ポストシーズンではテクニカルを7つ犯した時点で1試合出場停止となる。さらにオーバータイムではレブロンがフリースローの準備をしているところ、CLEのベンチににいたケンドリック・パーキンズに向かってチアダンスの真似をして煽り、ツイッター等でも話題になった。

 

一週間ほど前にハワード・ベック氏によるドレイモンド・グリーンに関する記事を読んでいた私は勢いづくグリーンを眺めながら「ああ、これか」と思った。ドレイモンドがドレイモンドの力を最大限に発揮するために必要なこと、それは彼が「自分らしくいられる」ということ。それが一見ワイルドで向こう見ずな行動を含むため、チームがそのバランスをいかに維持することができるかが問題視されGolden State’s Draymond Green Problem(ゴールデンステートが抱えるドレイモンド・グリーン問題)」という記事が書かれたこともあった。

2015年のチャンピオンシップ・パレードでは40年ぶりの優勝を祝う何万人ものファンの前でマイクを持ち、こう言った。「どんなショットを打ったかとかそういったことをスティーブ・カーに言われるのは俺だけだ。俺がシュートを打つたびに文句を言う。だから見てるとわかるけど、俺は打つたびにカーの方を見るんだ。あいつ俺が打つたびに文句言うんだ」。それに対して後ろに座っていたカーは「24パーセント!」とその年のカンファレンス準決勝以来のドレイモンドのスリーポイント%をあげた。お互いに冗談めかしているようで、そこに緊張感があるのは否めなかった。座っていたカーを演壇まで連れてきて「This my guy」と言いつつ「トレーニングキャンプ初日から俺のことを嫌ってた。これは嘘じゃない。今でも俺のことは嫌いかもしれない。これも嘘じゃない。でもこれからも俺たちでチャンピオンシップを勝ち取り続ける。これも嘘じゃない」と締めくくった。

2016年の2月、オクラホマで全国放送されていたサンダーとの試合のハーフタイムに誰かが大声で怒鳴る声がウォリアーズのロッカールームから聞こえてきた。声の主はドレイモンド・グリーン。ヘッドコーチのカーに向かって叫んでいた。「俺はロボットじゃない!プレーできるのはわかってるんだ!お前のせいで今俺はダメになってる。シュートさせたくないんだったらこの試合ではもう一切打たないよ!」この口論をロッカールームの外で聞いておりESPNで報道したリサ・サルターズは後にグリーンをインタビューした際に「この時一番気になったのは、あなたがただ怒っていただけではなく、それが悲痛な叫びに聞こえたこと。傷ついていたように聞こえた」と伝えた。

オクラホマではチームメイトの制御もあり幸い殴り合いにはならなかったものの、それまで何度か衝突のあったグリーンとカーの中でも最悪の出来事だった。その後グリーンは「100パーセント」トレードされると思ったそうだ。カーはヘッドコーチとして成功を収めていたし、動かされるのは自分、この関係は修復不可能なところまで行ってしまったと恐れ、母親や大学時代のコーチであるトム・イゾーにも不安を打ち明けたという。

ところがカーやGMのボブ・マイヤーズはグリーンのトレードなど微塵も考えていなかった。それよりも彼の持つエネルギーや感情をいかに良い方向へと向けることができるかを考えていた。オクラホマでの衝突から数日後、チームがコートで練習をしている中、カーとグリーンはスタンドに並んで座っていた。「一言も話しかけてほしくなかった」というグリーンに向かってカーは言った。「ドレイモンド、君の情熱も、何に対してでも声をあげることを躊躇しないところも大好きだ。このチームには君の燃えたぎる炎は必要だ。それに君と言い合いをするのだって好きだ。ただ、本当に実際君と喧嘩をするかもしれないと思いながらやってはいけない」。グリーンは同意し、お互いに言いたいことを言い合えるところが好きだと答えた。カーはグリーンがコーチング可能であると感じる必要があると伝えると、グリーンはそうありたい、コーチされる必要がある、と答えた。「その日以来、彼は俺のことを知ることにもっと興味を持ち始めたんだ。というのも、誰をも同じようにコーチすることは誰をも同じように(リーダーとして)引っ張ること同様に不可能だからね」

こうしてグリーンとカーの間に起こった最悪の事態は素晴らしい関係に発展するきっかけとなった。グリーン曰く、カーは「今後何があっても連絡を取り合える仲になった。これから先何が起きようとも連絡するし、時には相談をするし、意見を信頼できる相手」だそうだ。実際に彼らはよくテキストや電話をし合う仲だ。「お互いのことを理解し合ってるんだ」とカーは言う。「時には口論にもなることもわかってる。お互いに競争心が強いからね。他人が思ってる以上に私たちは似た者同士なんだ」。カーをよく知るマイヤーズ曰く「スティーブは私が出会った中でも競争心では一、二を争うくらい強い。上手く隠しているけど時に見え隠れする。それを体現してるドレイモンドとは違ってスティーブのは表面下で沸々と燃えている感じだ」。

カジュアルなファンから見たらグリーンのスタッツは大して目立たないかもしれない。シーズンで平均20点や10リバウンドを記録したこともない。今期の平均は11点、7.6リバウンド、7.2アシスト、1.4スティール、1.3ブロック。

ところがグリーンよりも派手なチームメイトと同じくらい彼はチームにとって必要不可欠だ。常にリーグでもトップにランクインするGSWのオフェンスの支柱でありディフェンスの要なのだ。ウォリアーズのどのガード陣よりも平均アシスト数が高く、チームのどのビッグマンよりも平均リバウンドを取っている。さらに5つのポジションを全て守ることができる。

「彼がベストな状態の時がチームもベストな状態だ」とカーは言う。「彼がダメな時はチームも苦しむ。何度も言ってきたけど彼はこのチームの鼓動のようなものなんだ」。

選手とコーチを結ぶ鍵は次のことを理解することだった。カーはグリーンに対してもう少し緩くなる必要があった。雄叫びをあげたい時はあげさせ、両手でガッツポーズを取りたいなら取らせ、シュートを打ちたい時には打たせる、そしてグリーンが正しいことをすると信頼すること。グリーン自身は自分の感情を上手く利用し、場合によってはカーを信頼し助言を聞くこと。

「人生において自分のことを変えようとする人は何人もいる」とグリーンは言う。「時にはその人は良かれと思って変えようとしてても、それが逆に悪い結果を招くこともある。カーが良かったのは、俺のことを変えようとしなかったんだ。彼が言うには『どうやってそれを上手く利用するか?そのアグレッシブさや情熱をいかに利用して有利に持って行くか?自分に不利にならないようにするか?』ということだった。スティーブのこういう所にとても助けられた。例えば俺の炎を消したとしてもゲームについて考える能力があるからそれなりの選手ではいられるかもしれない。でも炎を消されたら俺は俺じゃなくなるし、同じ選手じゃなくなる。だから彼がもっと頑固に俺を変えようとしてたら今の自分はない。それよりも俺が自分やチームのためにその炎をいかに利用するかを考える手助けをすることに注目し、尽くしてくれたんだ」。

グリーンと付き合う人にはOKCでのカーとの衝突のようなことが起きることが多い。「自分にとって大切な人間関係は今までどれもああやって始まってきた」とグリーンは語る。「今では心を許してる相手とは皆んなああいう瞬間があった。そういう人たちを一番信頼してる。まず、そういう人は他人の言いなりにならない。他人の言いなりになるやつの相手はしてられない。誰でも時にはノーと言われる必要があるからね。お前は間違ってる、と。俺の言うことややること全てに同意して間違ってると言ってくれない人間は俺にとって良くない。そういう奴らは大抵自分の利益のことしか考えてない。だから(口論になるような)強さが見えると、その人は自分が何を得るか、だけじゃないとわかる。自分のことしか考えてなかったらわざわざそこにいない。これが俺にとっては大事なことなんだ」。こうしてグリーンの信頼を勝ち取った人物のリストは長くはない。グリーンをよく理解してるとなるとそのリストはさらに短くなる。グリーンによると母親とイゾーとカーの3人だけだそうだ。

ミシガン州立大学の男子バスケットボールチームのヘッドコーチを今も務めるトム・イゾーはグリーンとの「最悪な衝突」がいつだったかは覚えていない。「いくつもありすぎて」と答えるイゾーもまた、グリーンとの衝突を繰り返し、信頼を勝ち取ることに成功した。カー同様、最初はイゾーから嫌われていると思い込んでいたグリーンは、彼らからしたら普通に注意したことでもそれを批判と受け止め、自分を変えようとしていると捉えた。反発し、時には暴言を吐き、彼らの意図が純粋であることが分かって初めて信頼できるようになった。ウォリアーズのヘッドコーチに就任したばかりの頃、カーはグリーンのことをより良く知ろうとイゾーに連絡を取った。今でもカーとイゾーはよく連絡を取り合う仲だという。これにはグリーン本人も驚きを隠せない。「俺の大学のコーチとよく話してるんだ。そんなこと誰もやってないよ!NBAでそんなことやってる人なんていないよ。でもまさにこういう事だよねいかに俺が俺でいつづけるための手助けをしてくれてるかが分かるよ。『理解できない』って投げ出す人の方が多いと思う。でも俺のことを理解することができた人をわざわざ頼ったんだ。『コーチ・イゾーは理解することができた、聞いてみよう』ってね」。

オクラホマでの衝突から1年後。2017年の2月下旬、49−9と好調な戦績のGSWとは裏腹にグリーンは絶不調だった。世界に対して、そして私に対して怒っていた、とカーは振り返る。チームとしてプレーすべき「正しい」バスケができていないと感じており、カーがそれについて十分に言及してないとも思っていたグリーンは爆発寸前だった。ネッツとの対戦ではたった23分間の出場となり、カーは試合の残り10:25でグリーンをベンチに下げた。試合後も丸一日お互いに話さなかった。そのさらに翌日、カーはグリーンに3ページの手紙を渡し、時間がある時に読むようにだけ伝えた。この手紙を巡る記憶は2人の間でだいぶ異なっている。グリーンの記憶では手紙は手書きで、飛行機の中で渡され、貰ってから読むまでに34日ほどあったという。カー曰く手紙はタイプして印刷し、ジムで渡した後、その日のうちに読まれたとのこと。詳しいことはどうあれ、グリーンはその手紙を開封し、最初の数行だけ読んだ。大体の内容はこうだった「君のことは愛してるし尊敬してる。君が傷ついているのはわかってる。話がしたい」。グリーンはそれ以上読むのをやめ、手紙を捨てた。「最初の一文が全てだった。俺が知りたいことがすべてそこに書かれていた。わかってる。あいつは俺のことをちゃんとわかってる、俺は大丈夫だ。俺の中にあった怒りが消えたんだ。俺のことをわかってくれてる!」その瞬間、カーが自分のことを真に理解してくれていることにグリーンは気づいたという。

グリーンを理解することでコーチとしてカーにも影響があった。各選手が必要とすることは根本的に違っていて、それぞれに対するアプローチをより考えるようになった。初年度はそこまであまり理解していなかった、とカーは言う。さらにはバスケに関する基本的な考えを改めるまでに至った。以前グリーンが打つと顔をしかめていたいわゆる「悪いショット」やビッグショットを決めた後に大口を叩くことにも価値があると考えるようになったのだ。「ドレイモンドがドレイモンドでいるためにはそのスリーを決めた後に相手のコーチに向かって『ファックユー!俺のことをちゃんとガードし始めないとダメだぞこの野郎!』と言う必要があるんだ。それが燃料となってディフェンスも良くなる。」グリーンが得意なディフェンスに全力を注ぐには、オフェンスで多少の自由も必要なのだ。

そこを理解できなかったため、OKCでの衝突が起こった。グリーンがカリーへのドリブルハンドオフというシンプルかつ「正しいプレー」をせずにシュートを打ったことをカーは叱ったのだった。「『ファックユー』の部分が分かってなかったんだ。ドレイモンドが最高のレベルでプレーするために時にはスリーを打ったりリスクを犯す必要があるんだ。だから彼の失敗をも受け入れなければいけない」とカーは言う。

今ではカーのおかげでグリーンは以前よりも少し安定している。カーはグリーンのおかげでもう少し緩くなった。今季10月には大差で勝っていた試合の終盤にも関わらずルーキーのジョーダン・ベルが自らへのロブ・ダンクを決め、カーは顔をしかめた。バスケにおけるマナー違反を犯したからだ。ところがグリーンはベルのような若い選手には自分をアピールする瞬間が必要なのだ、問題ない、とカーを諭した。グリーンがスリーを決めた後に相手コーチを睨みつける必要があるように、そしてビッグショットを決めた後のカリーが肩を揺らせるシミーをする必要があるように。

「ドレイモンドには多大なる影響を受けたよ。ドラフトの2巡目から『彼はどのポジションでプレーするのか?』からオールスターになるまでを見てきたからね。それを知性と多才さと自信を持って示してきた。あの自信がなければドレイモンドはドレイモンドではあり得ない。だから私が『止めろ、もっと控えろ』なんて言う資格はないんだよ。もしかしたら控えるんじゃなくてもっとやることで偉大な選手になることにつながるかもしれない」。カーの言葉を伝えられたグリーンはこう答えた「自分のことをそんな風に思ってくれる人がいるなんて素晴らしいことだよ。特にそれが自分のコーチで、バスケにとっても偉大な人となるとなおさら。本当になんて言っていいか分からないよ。俺にとってはすごく意味のあることだ。俺にとってコーチであるスティーブ・カーとの関係は重要な意味があって、そんな彼が俺のことをそんな風に思ってくれてるなんて、これ以上ないことだよ。」

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